コスパ重視なのに本格って矛盾してないか?と思ったかもしれません。
コンソメスープはコンソメキューブや粉末を作って作るのが一番簡単でコスパがいいですからね。
食材からうまみを出してイチから作るコンソメスープだから本格という言葉を今回は使わせて頂きました。
伝統的なフランス料理のコンソメスープは鶏がらや香辛料などスーパーで揃えるのにやや難しい材料と完成されるまで時間がかかることから作るには腰が重い料理のひとつではないかと思います。
しかしコンソメスープを作る過程のブイヨン(洋風のだし)はフランス料理の基礎となるソースの材料であり食材のうま味の引き出し方を教えてくれる調理科学の教科書のような存在です。
今回はコンソメスープの作りにくさをできる限り排除しつつ、揃えやすい材料で食材のうま味を引き出した入門向けのレシピを開発していきたいと思います。
第1回目はオリジナルレシピを考える事前準備としてコンソメスープの基礎知識を3つの章に分けてお送りします。
- コンソメスープの基本的な作り方
- コンソメスープを作るために適した材料について
- 作り方の重要なポイントと入門向けにアレンジするために考えられる選択
当記事のカテゴリー【オリジナルレシピ開発への道】では食品メーカーの商品開発経験のある管理栄養士がレシピ開発をする時に何を考えているのかを紹介します。
上の図のようにオリジナルレシピを作る流れに従って1レシピにつき①事前準備編②実践編(レシピ作成・試作評価)の2本の記事を投稿します。
オリジナルレシピ開発の考え方については別で記事を投稿しているので見てくれると嬉しいです。
“美味しいコンソメスープ”を言語化してみる
レストランが提供するコンソメスープに求められるレベルは次の2つです。
- 食材のうま味と風味が十分に抽出されている
- スープに浮いた油や濁りが無く琥珀色に輝いている
1つ目はうま味が強い動物性の肉や骨、風味が強い香味野菜を組み合わせて作ることで実現します。
調理方法次第でうま味や風味の質はある程度変わりますが、一番重要なのは良い食材を選ぶことです。
コンソメスープを作るのに適した食材とうま味と風味の抽出方法を理解する必要があります。
入門向けのレシピの場合は価格や手に入れやすさなども考慮入れる必要がありそうです。
2つ目のスープの濁りを取り除くためには卵白を使用します。
卵白をどのように使えばうまく濁りを除去できるのか仕組みと調理工程について理解する必要があります。
以上の事項を踏まえて今回開発するレシピを求められるレベルに近づけるための課題を明らかにしましょう。まずはコンソメスープの基本的な作り方の流れを見ていきます。
STEP1事前調査の開始です!
1.コンソメスープの基本的な作り方
2.コンソメを作るために適した材料とは
3.作り方の重要なポイントと入門向けにアレンジするために考えられる選択
食材からうまみを最大限に引き出すための方法
コンソメスープを澄ませるための方法
卵白が濁りを除去する仕組みと実際の調理工程
4.まとめ
1.コンソメスープの基本的な作り方
コンソメスープの基本的な作り方は以下の通りです。
工程① コンソメサンプルの |
1 | 脂身の少ない肉と骨を沸騰するまで強火で煮込む。 |
2 | 灰汁を取り、香味野菜とスパイスを入れる。 | |
3 | 灰汁を取りながら6~12時間煮込む。 | |
4 | 濾す(コンソメサンプルの完成)。 | |
工程② スープを澄ませる |
5 | 細かく刻んだ肉・野菜に卵白を練り合わせる。 |
6 | 5に人肌に温めたブイヨンを合わせて攪拌しながら加熱する。 | |
7 | スープが白濁し始めたら弱火にする(60℃付近)。 | |
8 | 浮いてきた塊を鍋の端に寄せて真ん中に穴を開けて煮込む。 | |
9 | 1.5時間ほど煮込んだらスープを濾す。 | |
10 | 食塩で味を調節して温めた状態で提供する。 |
コンソメスープの調理工程は大きく分けて2つに分けることができます。
1つ目はコンソメサンプルの作成、2つ目はスープの調整と澄ましです。
コンソメサンプルとはコンソメスープの材料となるブイヨンのことです。
ブイヨンは洋風のだしで動物の肉と骨そして香味野菜を長時間煮込むことで作られます。
コンソメサンプルを作成した後は細かく刻んだ肉と野菜を煮込んでうま味をさらに追加し、卵白を使ってスープを澄ませます。
スープを澄ませる方法をフランス語でClarifications(クラリフィカション)といいます。
コンソメスープは2回にわたってうま味を抽出することからConsommé double(コンソメダブル)とも呼ばれます。
製法によっては3回うま味を抽出する場合もあるそうです。
工程をわける理由の1つとして実際のレストランではブイヨンをコンソメスープの他にも別の料理のソースの材料として使うことが考えられます。
最初の工程で汎用性の高いシンプルなブイヨンを作り、スープを澄ませる工程でスープ用にうま味を調整しつつ、卵白でスープを澄ませることで効率良く料理を作ることができます。
しかし、コンソメスープを作るためだけにブイヨンを作る場合も、スープを澄ませる必要がある以上工程を1つにまとめることはできません。
骨を使わず、いきなりひき肉と香味野菜だけで作る場合は1つの工程にできますが、スープに含まれるコラーゲンやうま味が少なくなり味は少し落ちてしまいます(実際に検証しました。詳細は次回の#2で)。
2.コンソメを作るために適した材料とは
コンソメスープに適した食材について水、動物性の食材、植物性の食材、香辛料に分けて詳しく見ていきましょう。
水
ブイヨンをとる水は硬水のほうがスープにコクをだしやすいといわれていますが、まずは味に影響の少なく日本人の舌に馴染み深い軟水で作ってみましょう。
水質に問題なければ水道水で十分です。
出来上がり重量の約1.4倍の水を用意しましょう。
例 使用する水14L→10L完成したブイヨン
煮込みの途中で水を追加する場合は温めたお湯を使用し、温度が低下しないようにしましょう。
動物性の食材
動物性の食材をコンソメスープの材料に使用する目的はコラーゲンとうま味が豊富に含まれたスープを抽出するためです。
コラーゲンが多く含まれるブイヨンは片栗粉などでは再現できない独特のとろみがついて濃厚な味わいになります。
うま味成分の供給源として肉が、コラーゲンの供給源として骨が向いていて2つの食材をバランス良く使うことが重要です。
コンソメスープに使用される肉は、一般的に牛すね肉や牛すじ肉がよく使われます。
運動量が多い肉の部位である足周りの肉は、うま味が豊かで脂身が少ないため、コンソメスープの材料として最適です。
コンソメスープに使用される骨は仔牛のすね骨や鶏がらが一般的な材料ですが、代用として手羽先を使用することもあります。
動物性の骨や皮は種類と年齢などによってコラーゲンの量や抽出のしやすさ異なります。
例えば鶏がらは6時間に煮込めば十分なコラーゲンを抽出することができますが牛のすね骨はコラーゲン同士の結び付きが強く6時間ではコラーゲンを十分に抽出することはできません。
牛特有のコクと風味のある高級感のあるスープにしたい場合は牛のすね骨がおすすめですが、安価でシンプルに作りたい場合は鶏がらで十分おいしく作ることができます。
植物性食品
コンソメスープに適した植物性食品は風味が豊かな香味野菜です。
一般的に使用されるのはトマト、タマネギ、ニンジン、セロリ、ポロネギです。
ブイヨンは長時間煮込むため野菜の切り方は大きめで十分に香気成分を抽出することができます。
傾向として香味野菜の割合が多いほど風味が強くなりますが、同時にコンソメスープに苦みや酸味が付加されます。
適度な苦みや酸味は味をより複雑にしコクを感じますが強すぎると味のバランスが崩れてしまいます。
動物性食品と植物性食品をバランス良く入れることを意識しましょう。
また香味野菜の組み合わせによって風味だけでなく味も変化します。
例えばトマトはグルタミン酸が豊富に含まれるため、スープのうま味の増強にもつながります。
にんじんやたまねぎを入れるとコンソメスープにほんのりとした甘味が追加されます。
セロリは風味が強く、肉の臭みを打ち消しスープの風味を良くします。
ジビエや牛すじなど癖のある肉からうま味を抽出する場合はセロリを多めに入れるといいでしょう。
ただしセロリは入れすぎると苦みが強くなる傾向にあるため入れる量には注意が必要です。
香辛料
スパイスやハーブなどの小さい食材はブーケガルニとしてまとめた状態で入れます。
使用する主なスパイスは黒こしょう、ローリエ、パセリで好みに合わせてクローブやタイム。にんにくなどを入れます。
スパイスは少量で味や香りが大きく変化するので作る量によって臨機応変に使用量を変えることを意識しましょう。
例えばローリエは家庭料理では鍋やフライパンいっぱいの料理に1枚で十分でそれ以上は苦味など雑味となります。
3.作り方の重要なポイントと入門向けにアレンジするために考えられる選択
食材からうまみを最大限に引き出すための方法
コンソメスープにおける煮込みは食材からうまみと風味を残さずスープに移すことです。
そのため煮込み終わった食材はほとんど味がしません。
この状態にもっていくのに長時間煮込む必要がありますが、長時間とはいったいどれくらいなのでしょうか?
多くのレシピの煮込み時間は5~6時間ですが、うま味を最大限に引き出すためにはさらに煮込む必要があるという意見もあります。
エスコフィエフランス料理(邦訳)によると肉から肉汁を取り出すのは5時間くらいで十分だが、骨から溶解する部分を引き出すためには12~15時間かけてゆっくり調理することが必要とあります。
これには様々な解釈がありますが私は
「肉からうま味を抽出する場合は5時間で十分だがコラーゲンを抽出する場合は12~15時間かけてゆっくり調理することが必要」
と解釈しました。
溶解する部分とは推測になりますがコラーゲンであると考えられます。
溶解は一般的に固体が液体に変化する現象を指すものであり肉や骨を長時間加熱するとコラーゲンを含む結合組織からトロミとなるゼラチンが抽出されるからです。
ゼラチンの抽出を目的として加熱するならば食材の組織の結合の強さによって煮込み時間は異なります。
例えば成熟した牛の骨からゼラチンを抽出する場合、仔牛の骨よりも抽出に時間がかかります。
鶏がらは6時間ほどでコラーゲンの抽出が可能で魚の骨にいたっては1~2時間ほどで抽出することができます(ただし魚ではとろみがつくほどのコラーゲンの抽出はできません)。
どこまで煮込むべきかは実際に12時間煮込んでみないとわかりませんが長時間の加熱は風味が落ちてしまったりスープにすでに溶けているコラーゲンが分解されてトロミが弱まるなどのデメリットもあります。
レシピを考える際には肉や骨の種類や野菜を入れるタイミングを考慮にいれて香りとトロミが最大限になるように工夫する必要があります。
コンソメの作り方について
コンソメ・サンプルを作るには5時間くらいかけるのが普通であり、これは牛肉から肉汁を出すのに十分な時間である。
その代わりに、骨を肉から離し、溶解する部分を引き出すには、時間は全く不十分である。
その結果非常に重要であるが、12~15時間かけてゆっくり調理することが必要になってくる。引用:エスコフィエフランス料理(邦訳)【1】
最適な煮込み時間は様々な解釈ができそうです。
有識者の方よろしければコメントにてご指導宜しくお願い致します。
別の方法でブイヨンを作成することを考えてみる
食材からうまみと風味を残さずスープに移した状態にもっていくのに長時間煮込む必要がある。
この文章に異議を唱えてみました。
発想を逆転させてみましょう。
食材からうまみと風味を残さずスープに移すことができれば長時間煮込む必要はないのです。
食材からうまみと風味を残さずスープに移す方法は私の考えられる範囲では2つあります。
1つめは圧力鍋を使う方法です。
圧力鍋は中に圧力をかけることで沸点を上昇させ煮込み料理を120℃ほどで加熱することができる調理器具です。
食材を高温で煮込むことはブイヨンを作る時は弱火でじっくり煮込むべきという常識に反しますが、ブイヨンの使用用途によっては問題ありません(実際に検証しました。詳細は次回の#2で)。
加熱温度が高いほど食材に起こる化学反応は早くなり、調理時間を短縮することができます。
理論上は温度が10℃上昇するごとに半分の時間で調理することができるので、実際の料理では鍋の中が120℃になっていると想定して通常の煮込み時間の1/2から1/4の時間で調理を行います。
また鍋に蓋をして調理するため風味が逃げにくいメリットがあります。
嫌な臭いも逃げにくいためブイヨンをとるときは肉や骨を十分加熱しアクをとった後に蓋をする必要があります。
2つ目は真空調理器を使う方法です。
真空調理法は食材と調味液を専用の袋に入れた後、脱気して一定の温度に保ったお湯のコンテナで加熱する方法で袋ごとに別の料理を作ることで1回の調理で様々な料理を作ることができます。
注目するべきポイントは正確な温度で加熱することができるという点です。
酸化しやすい油を持つ魚のストックや風味が重要な野菜のブイヨンは真空調理の低温でじっくり加熱する方法が最適です。
食材ごとにベストな加熱時間を考える必要があり上級者向けの調理方法です。
今回は短時間で調理する入門者向けのレシピを目指していますので採用はしませんが1度に複数のスープを作る場合には時短ができそうなので参考までに紹介しました。
コンソメスープを澄ませるための方法
スープを綺麗に仕上げるためにはスープの濁りを取り、表面に浮いた油を取り除く必要があります。
それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
卵白が濁りを除去する仕組みと実際の調理工程
コンソメスープを澄ませるのに最も重要な役割を担うのが卵白です。
卵白は熱で固まると微細な網目構造を作り、濁りの原因であるアクを吸着します【1】。
効果的にスープの濁りを取るには、卵白をブイヨンに均等に混ぜて加熱させる必要があります。
そのため卵白は細かく刻んだ肉と野菜に練りこませてから人肌に温めたブイヨンを加えて加熱します(手順⑤~⑥)。
卵白はある程度泡立てた状態で練りこませた方が濁りの吸着力が上がります。
加熱し始めは底をしっかり混ぜて焦げ付きを防ぎます。
肉と卵白のタンパク質が凝固しスープが白濁し始めたらかき混ぜるのをやめて凝固したタンパク質を鍋の縁に寄せて真ん中に穴が開いた状態にします。
すると対流ができて縁に寄せたタンパク質の塊がフィルターの役割をして表面に浮かび上がる液中の粒子をとらえ続けます。
この工程を通じて、コンソメスープを澄ませることができるのです。
卵白の量が多いほど澄ましやすくなりますが、多すぎると卵特有の硫黄臭が付いてしまう為、ひき肉の重量の10%以下に抑えましょう(目安5~6%)。
表面の油を取り除く方法
表面に浮いた油はクッキングペーパーを敷いたシノア(細かいザルや粉ふるい用でも可)で濾すことで取り除くことができます。
大きな油の場合は一度冷蔵庫で冷やすことで油が固まり、きれいに取り除くことができます。
コンソメサンプルの作成の工程では不純物さえ濾せれば油はある程度入っていてもあまり影響はありませんが、澄ましの工程の後は完成なので油は念入りに取り除きましょう。
4.まとめ
コンソメスープについて理解を深めたことで目指すべき入門向けのコンソメスープの課題が明らかになりました。
課題と解決のために行った検証について簡単ですが紹介します(詳細は次回の記事をご覧ください)。
課題①入門向けの本格コンソメスープの材料はどのようなものがいいか?
2.コンソメを作るために適した材料とはで紹介した事項に加えてできるだけ安価で手に入れやすいものを使用したいですね。
動物性の食材はすべて鶏を使用するのが一番安上がりですがあっさりとした味になりますのでここは奮発して肉は牛すじ肉を使用してコラーゲン分は鶏がらか手羽先を使用するのが価格とおいしさのバランスが取れている気がします。
植物性の食材はポロネギと一部の香辛料が手に入れにくいと思いますので手に入れやすい材料にする必要がありそうです。
以上の考えから有名なレシピをベースにして、珍しい食材や高価な食材は安価で手に入れやすい食材に置き換えて味を比較する検証を行いました。
課題②材料にあった最適な煮込み時間は?
今回の調査で鶏がらは6時間ほどの煮込みでコラーゲンを抽出することができるが牛すね骨の場合は6時間では十分にコラーゲンを抽出することができないことが推測されました。
課題①の検証で決めた材料の場合の最適な煮込み時間を決めるために6時間煮込みのブイヨンと12時間煮込みのブイヨンを作成しそれぞれのコンソメスープを作り比較検証しました。
課題③圧力鍋を使って加熱時間を短縮することは可能か?
圧力鍋を使うことで高温での煮込みができ、調理時間の短縮ができることがわかりました。
課題②の検証で決めた最適な煮込み時間をもとに予測される短縮時間を決めました。
圧力鍋で時短した場合のコンソメスープの風味や見た目を課題②で作ったコンソメスープと比較する検証を行いました。
課題④ブイヨンの作成とスープを澄ませる工程を同時に行うことは可能か?
課題②で決めた材料を使い、作り方の手順はスープを澄ませる工程(1.コンソメスープの基本的な作り方の手順5~10)からコンソメスープを作りました。
味や見た目の比較を課題③で作成したコンソメスープで行いました。
次回は課題解決のために行った検証について深堀します。
最終的に検証を踏まえて入門向けの本格コンソメスープの材料と作り方を決めていきます。
レシピ開発までの意思決定の流れがわかるような内容になっていますので興味がある方は是非最後までご覧下さい。
お楽しみに!
参考文献
【1】角田明翻訳:エスコフィエフランス料理、株式会社柴田書店、1996、P147
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