パルミジャーノ・レッジャーノ

パルミジャーノ・レッジャーノはイタリアのエミリア・ロマーニャ州の一部とロンバルディア州の一部の限定された地域*1で作られる超硬質タイプに分類されるチーズです。
強いうま味と風味、そしてフレーク状の少しザラザラした食感が特徴で、その食感と風味は最低でも12ヶ月はかかる長い熟成期間に由来します。
パルメジャーノレッジャーノ生産地一覧 ①パルマ県 ②レッジョ・エミリア ③モデナ県 ④マントヴァ県 ⑤ボローニャ県

パルミジャーノ・レッジャーノと日本で販売されている「パルメザンチーズ」は名前が似ていますが、全くの別物です。
“パルミジャーノ・レッジャーノ“という名称はイタリアの原産地名称保護制度(D.O.P.)の認定を受けたチーズのみに使うことができます。
認定を受けるためには製造に使用する牛乳の生産とチーズの製造は限定生産地域*1で行われる必要があり、他にも原材料や製造工程について厳しい規制を満たす必要があります。

*1 パルマ県、レッジョ・エミリア県、モデナ県の全域、レノ川左岸のボローニャ県とポー川右岸のマントヴァ県でのみ製造が可能

この食材のポイント
・製造工程でわかるパルミジャーノ・レッジャーノのおいしさの秘密
・パルミジャーノ・レッジャーノと原産地名称保護制度(D.O.P.)
・パッケージで見るパルミジャーノ・レッジャーノの選び方
・パルミジャーノ・レッジャーノの調理法・保存方法

1.パルミジャーノ・レッジャーノの製造工程

パルミジャーノ・レッジャーノの特徴である強いうま味と特有の風味そしてザラザラとした食感はどのようにして生まれるのでしょうか?
製造工程を見てみましょう。


パルミジャーノ・レッジャーノにベストな脂肪とカゼインの比率にするため、牛乳は一晩おいて表面の脂肪分を取り除いたものと朝の搾りたてのものを合わせて使用しています。工程①でレンネット*2と一緒に加えるホエイは前日の製造からでたもので乳酸菌が含まれており乳酸発酵を目的としています。

*2 レンネットとは簡単に説明すると牛乳を固める天然の酵素です。

パルミジャーノ・レッジャーノは牛乳を乳酸菌とレンネットによってカード(固形物)とホエイ(水分)に分離し、カードの部分を塩漬けにし、熟成させることで作られます。
おおよその製造工程は他のチーズに共通しますが、大きな特徴は長い熟成工程です。
最低でも12ヶ月は熟成しないとパルミジャーノ・レッジャーノという名称を使うことができません【1】。
また、24か月、36か月、48か月と熟成期間によって別のグレードとして分けて販売しています。

2.製造工程でわかるパルミジャーノ・レッジャーノのおいしさの秘密

パルミジャーノ・レッジャーノを特徴づける重要な工程が熟成であることがわかりました。
では熟成によりどのような変化がおこり、おいしさに関わるのか①うま味・特有の風味、②食感の2つの視点でみていきましょう。

うま味・特有の風味

熟成前のカードはホエイの除去(工程⑥)、塩漬(工程⑧)を経て水分が除去されタンパク質、脂質、カルシウムなどの成分が多く含まれています。
熟成期間は、工程①で添加した様々な種類の乳酸菌がカードの中で活動し、発酵します。
発酵により、タンパク質はアミノ酸に脂質は香気成分のある短鎖脂肪酸に一部変換されることでパルミジャーノ・レッジャーノに強いうま味と特有の風味を与えます。
パルミジャーノ・レッジャーノの中に見られる白い模様はアミノ酸のチロシンの結晶といわれています【1】。

熟成期間が長いほど発酵が進み、風味に変化が現れます。
パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会によると熟成期間が以下のように変化するそうです。

12~19ヶ月 デリケート
新鮮な牛乳、ヨーグルト、バターの繊細な香りがあり、草やゆでた野菜の植物的な香りと甘くて酸っぱい風味。
チロシンの結晶が白い斑点のような形でチーズ中に現れ始める。
スパークリング白ワインと組み合わせた食前酒のお供に、またはサラダや冷たい料理を豊かにするのに特に適している。

20~26か月 ハーモニック
口に含むと甘味と風味のバランスが良く、ミルクとヨーグルトのほのかな香りに、溶けたバターやバナナやパイナップルなどの新鮮なフルーツの香り。
チーズの状態はデリケートよりも水分が失われてもろくて粒状。
もっともパルミジャーノ・レッジャーノの特徴を表現した熟成期間。
料理と合わせやすいミディアムボディのワインに最適で、あらゆる伝統的なイタリア料理に風味を与える。

27~34か月 アロマティック
ドライフルーツ、肉汁の香り、ナツメグなどのスパイスの香り。チーズの状態は可溶性で、非常にもろくて乾燥している。
詰め物をして焼き上げたパスタや、食事の最後にフルーツや蜂蜜と組み合わせて楽しむのに適している。

35~45か月 インテンス
スパイスとスモークの香りで風味が強い。チーズの色は琥珀色に近い濃い黄色でチロシンの結晶が非常にはっきりと見える。
単体で楽しむメディテーションワインのお供に最適。

パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会 パルミジャーノ・レッジャーノガイドより引用

食感

パルミジャーノ・レッジャーノは熟成期間が進むほどに水分が少なくなり、発酵によりチロシンが結晶化します。
一般的に水分の少ないチーズほど硬くなる傾向にあり、パルミジャーノ・レッジャーノは水分量が約30%の超硬質チーズに分類され他のチーズに比べ水分が少ないです。
水分が少ないことによる硬さ、そしてチロシンの結晶化がパルミジャーノ・レッジャーノにザラザラとした食感を与えるのです。

表:水分量とチーズの分類水分含量は資料によってばらつきがあった為、それぞれのチーズの水分量を確認し、矛盾が無いように一部改変しました。参考程度に見ておいてください。【2】、水分量の範囲:【3】

3.原産地名称保護制度(D.O.P.)とパルミジャーノ・レッジャーノ 厳しい規制が設けられるようになった背景

イタリアの原産地名称保護制度(Denominazione di Origine Protetta以下:D.O.P.)は簡単に説明すると地域の名産品のブランドイメージを保護するための制度でEUの原産地名称保護制度であるProtected Designation of Origin(P.D.O.)に準拠した制度になっています。

パルミジャーノ・レッジャーノがD.O.P.認定を受ける為には以下のような規則を守る必要があります(一部紹介)【4】。

原料と製造工程に関する規則

製造に使用する原料はパルマ県、レッジョ・エミリア県、モデナ県の全域およびレノ川左岸のボローニャ県とポー川右岸のマントヴァ県で生産されたものでなければなりません。
乳牛の飼料も75%以上は地域で生産されたものである必要があり、種類も細かく決められています。
製造工程も細かく決められており、熟成工程は最低12ヶ月の熟成期間を設けなければいけません。
12ヶ月はEUのP.D.O.規則のあるチーズの中でも最長の熟成期間です。

専門検査を行う様子 写真提供:パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会

熟成から12ヶ月経つとパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会による専門検査が行われ品質によってパルミジャーノ・レッジャーノ、パルミジャーノ・レッジャーノ・メッザーノ、失格の3つに分類されます。
パルミジャーノ・レッジャーノとメッザーノには楕円形の焼き印が押されます。

楕円形の焼き印マーク 写真提供:パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会

検査で問題の無かったパルミジャーノ・レッジャーノの一部は更に熟成を行います。
”メッザーノ”は味や風味に問題はありませんが長期熟成に適さないため、パルミジャーノ・レッジャーノとは区別するために楕円形の上にいくつかの溝を付けてそれ以上熟成を行わず流通します。
メッザーノ以下のチーズは失格となりパルミジャーノ・レッジャーノの名称を使用することができません。
パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会による第三者の検査を行うことでパルミジャーノ・レッジャーノの品質を保証することができるのです。

流通時のトレーサビリティ・偽造防止に関する規則

パルミジャーノ・レッジャーノはトレーサビリティのため、平面にホールごとに固有の英数字コードがついた二次元コードを張り付ける規則があります。
また、側面には模様があります。これも規則のひとつで偽造を防止するために全面に”PARMIGIANO-REGGIANO”の文字とD.O.P.のマークが刻まれています。
ほかにもトレーサビリティのため製造年月とチーズ製造所の番号が刻まれています。
まるでお札みたいですね!
専門検査の焼き印以外の模様は生産工程⑦の成型時に型の模様として付けられます。

写真提供:パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会

パルミジャーノ・レッジャーノの多くは切り分けた状態で流通します。
切り分けた状態パルミジャーノ・レッジャーノの側面はこんな感じ↓

模様はほとんど見えないこれでは偽装されてしまうのでは?と思うかもしれません。
D.O.P.による規則は加工や包装に関しても規則が徹底しています。
すりおろし、切り分ける加工とそれに続く包装工程は指定された生産地内で行わなければいけません。
そして包装のパッケージには表示が義務となっている箇所がいくつかあります。

表面  ①上部にチーズのマークの下にPARMIGIANO REGGIANOの文言 ②D.O.P.の認証マーク ③イタリア農林省(MIPAAF)の認証文言 裏面 ④熟成期間 私が購入したものは22か月のものでした。 ⑤包装工場の識別マーク
パルミジャーノ・レッジャーノに義務付けられている包装規則 写真はZanetti社の包装

図のような文言や認証マークがあることで現地で包装された本物のパルミジャーノ・レッジャーノであることを見分けることができます。
ただし、日本国内での消費を目的として、日本国内でカット、販売前の事前包装及び包装等が行われる場合にはこれらの包装規則はありませんので(2024年1月時点)イタリア国外でこれらの表示が無い製品が必ずしも偽物であるわけではありませんので注意してください【5】。

パルミジャーノ・レッジャーノはなぜ原産地名称保護制度(以下:D.O.P.)によって厳しい規制が設けられるようになったのでしょうか?
模倣品の横行と大量生産の進展による伝統的製法の損失からパルミジャーノ・レッジャーノを守るためです。
名産品は名称そのものに価値が出始めると、模倣品が横行します。
このような状態を放置してしまうと同じ商品名なのに作り方や味が違うなど品質の低下が起こり、名産品のブランドイメージに傷がついてしまいます。
製造方法や包装時の規則を設けることでパルミジャーノ・レッジャーノの品質を保証し、模倣品や偽物の流通を防ぐことができるのです。

大量生産の進展についてはどうでしょうか?
大量生産品は安価で安定した製品が流通するという恩恵がある一方、パルミジャーノ・レッジャーノのような作る数に限界がある伝統的な製法が競争により失われる可能性があります。
パルミジャーノ・レッジャーノの製法は大量生産ではなく風味を重視した原料や熟成方法を採用しており、大量生産品にはない独自の魅力があります。
そこでD.O.P.によって原料や製法に規則を設ける代わりに、パルミジャーノ・レッジャーノは規則を守って作られたものであるとD.O.P.が認定することで、その品質や伝統的な製法の独自性を保証し、競争に対抗するのです。

4.パルミジャーノ・レッジャーノの選び方、調理方法、保存方法

パルミジャーノ・レッジャーノの選び方

パルミジャーノ・レッジャーノの偽物・模造品を選ばないようにするにはD.O.P.規則の項目で解説した通りパッケージを参考にしてください。

表面  ①上部にチーズのマークの下にPARMIGIANO REGGIANOの文言 ②D.O.P.の認証マーク ③イタリア農林省(MIPAAF)の認証文言 裏面 ④熟成期間 私が購入したものは22か月のものでした。 ⑤包装工場の識別マーク

パルミジャーノ・レッジャーノの調理方法

パルミジャーノ・レッジャーノのおすすめの調理方法は一口大に砕いてそのまま食べたり、すりおろしてパスタやサラダのドレッシングにたっぷりと使うのがおすすめです。
特に熟成期間の長いものに関しては料理には使わずそのままの味を楽しむのがおすすめです。
パルミジャーノ・レッジャーノを味わうのに理想的な温度は16~17℃の間です。
チーズが冷蔵庫にある場合は、食べる前に外に出しておき、室温に戻してから食べると一番いい状態で食べることができます。

風味付けを目的としてチーズフォンデュのようなチーズソースやピザに使用することもできますが、パルミジャーノ・レッジャーノは水分が少ない性質状、とろけるチーズのような食感にすることができないので個人的にはおすすめしません。ソースの場合はミルクなどで水分を補うか、別のチーズを併用する必要があります。

日本でパルミジャーノ・レッジャーノを購入する場合、現地と比べてとても高価なのでパルミジャーノ・レッジャーノ本来の風味が損なわない調理方法がいいと思います。

関連レシピ

パルミジャーノ・レッジャーノの保存方法

冷蔵庫にて保管しましょう。風味が重要な食材なので包装開封後はアルミホイルでやさしめに包み他の食材となるべく離して保管しましょう。

参考文献 下線ありのものはクリックで参考先に飛ぶことができます。
【1】パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会
【2】加藤保子、中山勉編:食品学Ⅱ 食品の分類と利用法、株式会社南江堂、2016、P126

\楽天ポイント4倍セール!/
楽天市場
\商品券4%還元!/
Yahooショッピング

【3】山田保幸ほか、乾燥チーズの製造方法 Google Patents
【4】PROPOSTA DI MODIFICA DEL DISCIPLINARE DI PRODUZIONEDELLA DENOMINAZIONE DI ORIGINE PROTETTA “PARMIGIANO REGGIANO”
イタリア政府HP >イタリア農林省 >パルミジャーノ・レッジャーノよりPDFにてダウンロード可能です。
【5】農林水産省 地理的表示保護制度

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

サイト管理人

高木駿介

 

管理栄養士
趣味:料理、映画鑑賞(SFやヒーローもの)
食品会社の社会人1年目で休日ではサイト運営と食品テクノロジーについて調べています。

プロフィール詳細
お問い合わせ