にんじん

にんじんは、セリ科に分類される中央アジア原産の植物です【1】。
食用とされるのは根の部分で、現在では世界中で生産されています。
栽培種は大きく分けて西洋系品種と東洋系品種の2つに分けられます。
西洋系品種は一般的に流通している品種で、β-カロテンという脂溶性のオレンジ色の色素を含みます。
対して、東洋系品種は細長く赤、黄、紫と品種によって様々な色のにんじんがあります。
紫の色素はアントシアニン系の色素で水溶性であるため、煮込み料理などでは色が抜けやすいです。
赤や黄色の色素はカロテノイド系の色素で、β-カロテンと同様に脂溶性であるため、煮込み料理などでも色が抜けにくいです。
この記事では主に西洋品種について紹介します。

この食材のポイント
・にんじんの栽培時期は春撒きと夏撒きがある
3ヶ月ほどで収穫でき、通年で流通可能な野菜
詳しくは→1.生産方法と旬の時期 にんじんはこのようにしてできる
・にんじんの煮崩れ防止のためにはペクチンの性質を理解する必要がある
詳しくは→2.にんじんの風味と食感
・にんじんはビタミンAの摂取源として優秀な食材
詳しくは→3.にんじんの栄養評価
・にんじんは甘味を活かし油を使った料理がおすすめ!
詳しい食べ方は→4.にんじんの選び方、調理方法、保存方法

パースニップの栽培から収穫までの流れの例【2】

1.生産方法と旬の時期 にんじんはこのようにしてできる

にんじんの種まきの時期は一般的に春撒き(4月上旬~5月中旬)と夏撒き(6月中旬~7月上旬)があります。
生育期間は極早生種で90~95日ほどで春撒きの場合は6月下旬~9月上旬で、夏撒きの場合は10月上旬~11月中旬で収穫時期を迎えます。
ただし、にんじんは年間を通じて流通していることからもわかる通り、地域ごとに栽培時期は若干異なります。生産が少ない時期は外国からの輸入の場合があります。
にんじんの旬の時期は夏撒きのにんじんが収穫を迎える時期の秋~冬あたりといわれています。

にんじんは発芽率が低い作物で70~80%ほどといわれています。
そのため単位面積当たりに撒く種の量は他の作物よりも多く、密集して発芽した箇所は間引きを行います。
成長して根が土から顔を出すころに土寄せを行います。
土寄せを行うことで根が緑化するのを防ぎます。
土寄せは根の全体が土の中に入る程度とし、生長点(付け根)に土が入らないように作業を行います。

2.にんじんの風味と食感

にんじんはデンプンより糖分が多い根菜類で、ショ糖、ぶどう糖、果糖などの糖分が全体の5%を占めます。
にんじんが加熱することで甘くなるのは、熱により細胞壁が壊れて糖が外に出てくることに関係があります。
にんじんの風味は、草や松葉のような香りで、テルペン類の香気成分によるものです。
風味成分は外側の貯蔵組織に集中しており、にんじんの芯にあたる部分は根から葉へ水を運ぶ役割があるため、外側に比べ風味が少ないです。

にんじんの食感は、にんじんの細胞壁中に含まれるペクチンが大きく関係しています。
ペクチンはpH、温度、イオン濃度の変化により硬さが変化します。

加熱によるペクチンの分解【3】

食感とpH・温度の関係

にんじんは加熱すると軟らかくなるのは一般的な現象ですが、加熱時のpH条件によってペクチンの硬さは異なります。
pH3以下の高酸性条件下での加熱調理ではペクチンは加水分解が起こり、中性からアルカリ性の加熱調理ではβ-脱離が起こり、いずれの場合もにんじんは軟らかくなります。
しかしpH4の弱酸性下の加熱調理では加水分解もβ-脱離も起こらず、にんじんはシャキシャキとした食感になります。
また加熱調理の方法によっても硬さに違いがでます。
ペクチンは60℃付近になるとペクチンメチルエステラーゼという酵素が活性化し、β-脱離が起こりにくくなり硬い仕上がりになります。
にんじんを煮崩れしないようにするためには60℃付近をゆっくりと通過するように加熱することが重要です。

食感とイオン濃度の関係

にんじんは煮込み汁に含まれるイオンの違いによってペクチンの硬さが変化します。
例えばCa²+やAl³+などの多価イオンが存在すると、ペクチン分子同士が架橋されて硬くなります。
カルシウムを多く含む牛乳やアルミニウムを含むミョウバンは煮崩れを防ぐことができます。
またNa+やK+はペクチンの溶出を促進するので、食塩を含む調味液を加えてにんじんを煮込むと軟らかくなりやすくなります。

3.にんじんの栄養評価

にんじんはビタミンAの摂取源としてとても優秀な食材です。
にんじんの色素として紹介したβ-カロテンは体内に取り込まれるとビタミンAに変換されます。
ビタミンAは視覚機能や免疫機能の維持に重要な成分ですが、過剰に摂取すると皮膚の乾燥や肝臓障害などの毒性があります。
しかし、β-カロテンのビタミンAへの変換はビタミンAの体内含量によって調節されているためβ-カロテンの過剰摂取による影響はないと考えられています。
β-カロテンは脂溶性であるため油と一緒に摂取すると吸収率が上がります。

にんじんの皮は調理の際に取り除いてしまうことが多いですが、皮つきのほうが皮なしよりもカリウムや食物繊維が多く含まれています。
皮を剥いた方が食感が良くなりますがみじん切りなど食感の影響が少ない調理法を使う場合は皮を剥かずに調理することで効率の良い栄養摂取が望めます。

4.にんじんの選び方、調理方法、保存方法

にんじんの選び方

にんじんは乾燥や成長過多により根が割れることがあります。
新鮮で保存性の高いにんじんを選ぶためには根の割れや傷が少なく適度な硬さのものを選ぶといいです。
また生長点(根本)から葉が生え始めていたりひげ根が伸びているものは栄養がにんじんの成長に使われてしまっているので早いうちに消費した方がいいでしょう。

にんじんの調理法

にんじんの調理方法は加熱により甘さを引き出すことと、油を使ってにんじんに含まれるβ-カロテンの吸収率を上げることを意識することが重要です。
煮込み料理の場合は煮崩れを起こさないようにペクチンの性質を思い出して調理しましょう。

切り方

にんじんは煮込み料理以外は火が通りにくい食材であるためサラダや炒め料理の場合は千切りがおすすめです。
特にサラダ用は青臭い風味を抑えるために薄切りにし、風味が気になる場合は酢やドレッシングで他の野菜とは別にマリネしておくことで比較的食べやすくなります。

加熱調理

油を使ってにんじんを調理する方法は炒め料理以外にもあります。
バターと水を使ってにんじんを圧力鍋で煮込み作ったピュレはバターの風味とにんじんの甘味が最大限に活かされていてとてもおいしいです。
にんじんとバターを使った料理のにんじんのグラッセのポタージュを紹介します。

にんじんのグラッセ

  1. にんじん(200g)を皮を剥いて1cm幅の輪切りにする。
    面取りし形を整えると完成時きれいに仕上がります。
  2. 鍋ににんじんと水(150g)、バター(10g)、砂糖(小さじ1)、塩(適量)を入れて中火で熱し、沸騰したら蓋をして弱火で10分程煮る。
    にんじんを串でさして軟らかくなるのが目安です。
  3. 蓋を外して中火で熱して照りがでるまで煮詰める。

にんじんのポタージュ

  1. 溶かしたバター(50g)、にんじん(200g)、水(30g)を圧力鍋で20分ほど加熱する。
  2. ②重曹(1g)を加えると軟らかくなる。
  3. 加熱が終わったらミキサーにかけ鍋に戻す。
  4. 牛乳を加えて好みの温度に温めて塩で味を調整する。

これ以外でもにんじんと玉ねぎのかき揚げも甘くてジューシーでおすすめです。

にんじんの保存方法

1週間以内で使いきる場合は常温保管でも品質にあまり変化はありません。
しかし、冷蔵保管のほうが長持ちするのは確かであるため夏場など食材が腐りやすい時期は冷蔵庫に保存した方が望ましいでしょう。
保存する場合はキッチンペーパーで包み保存袋に入れて冷蔵庫で保存することで乾燥を防ぎ、比較的長持ちします。
保存目安は2週間です*1。

しばらく使わない場合は調理目的に合わせてあらかじめ切っておき保存袋で冷凍保存することで長期間保存することができます。
使用するときは解凍せずにそのまま使うことで比較的に味の劣化は少ないです。
冷凍したものは水分がでていきやすいため煮込み料理での使用がおすすめです。
保存目安は2ヵ月~3ヵ月です。

*1 紹介する保存方法の保存期間はあくまでも目安です。
食材の状態、保存環境によって保存期間は変化します。
使用する際はカビの有無や乾燥状態、冷凍の場合は冷凍焼けしていないかなど食材の状態を見たうえで使用するか各自で判断してください。

参考文献 下線ありのものはクリックで参考先に飛ぶことができます。
【1】植物和名ー学名インデックス YList:Daucus carota L. subsp. sativus (Hoffm.) Arcang.

【2】秋田県野菜栽培技術指針:農林水産省 PP285-287

【3】青木三恵子編:調理学、(株)化学同人、2016.09.20、P96

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高木駿介

 

管理栄養士
趣味:料理、映画鑑賞(SFやヒーローもの)
食品会社の社会人1年目で休日ではサイト運営と食品テクノロジーについて調べています。

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