ベーコン

ベーコンは冷蔵・冷凍技術が無い時代に肉を長期保存するための塩漬けの方法として生まれました。
現在の塩漬け工程は保存法としてよりも風味付けの側面が強くなり、かつてよりも塩分濃度は控えめになっています。

JAS規格*1の用語の定義によるとベーコンは豚のばら肉(骨付のものを含む。)を整形し、塩漬し、及びくん煙したものとされています【1】。
バラ肉を使ったベーコンが主流ですが、肩肉やロース肉を使用したベーコンなども存在します。

*1 JAS(Japanese Agricultural Standards、日本農林規格規格)は生産者、加工業者、消費者などが製品の品質や安全性を確保することを目的とした任意の規格です。
規格に則った製品はJASマークを包装に添付することができます。
ベーコンの包装にJASマークを添付する場合、その製品はベーコン類の品質評価基準に準拠する必要があります。
ベーコンの製造工程 ①豚肉を部位ごとに切り分け余分な脂肪を取り除く ②豚バラ肉、塩、香辛料 ③塩せき ④乾燥・くん煙 ⑤冷却 ⑥切り分け・包装

ベーコンの製造工程 (日本ハム・ソーセージ工業協同組合 ハム・ソーセージベーコンができるまでを参考に著者作成【2】)

この食材のポイント
・ベーコンは熟成方法によって風味が大きく変化する
詳しくは→1.ベーコンの味、食感
・ベーコンは使う肉の部位によって栄養素が異なる。
脂質の量が気になる人はショルダーベーコンがおすすめ!
詳しくは→2.ベーコンの栄養成分
・ベーコンは体に悪いという話があるが…
食べる量に気を付けるべきだが、気にしすぎる必要はない。
詳しくは→3.ベーコンに関するよくある質問

1.ベーコンの味、食感

ベーコンはスパイスとくん煙によるスモーキーな風味と塩味が特徴です。
製造方法によって、使用する部位や加熱の有無、熟成工程を含むかなど異なりその特徴も変わります。

使用する部位によるベーコンの特徴の変化

ベーコンは部位によってベーコン(バラ肉)、ロースベーコン、ショルダーベーコン(肩肉)に分けられます。

豚肉の部位 日本ハム株式会社 豚肉の基礎知識を参考に著者作成【3】

一般的に見かける豚バラ肉を使用したベーコンは、脂肪が多くジューシーなのが特徴で、薄くスライスした状態でじっくり焼くとカリカリの食感になります。
豊富な脂肪から生まれるコクが、パスタや煮込み料理とよく合います。
ロースベーコンは脂肪と肉のバランスがバラ肉と肩肉の中間くらいでブロックタイプの状態でも食べやすいのが特徴です。
ロース肉はどちらかというとハムによく使われロースベーコンはあまり見かけません。
ショルダーベーコンは3つのベーコンの中で一番脂肪が少なく、朝食の付け合わせやサラダなどあっさりとした料理にあう食材です。
スーパーでは赤身ベーコンなどの商品名で売っています。

熟成工程によるベーコンの特徴の変化

熟成は、ベーコンの製造過程において重要な役割を果たします。
まず、熟成という言葉には二つの意味があります。

なま

一つ目は、ヨーロッパをはじめとする地域の伝統的な製法で、熟成室で乾燥させる方法です。
イタリアのパンチェッタやグアンチャーレなどがこの熟成法を採用しています。
この方法では、特定の温度と湿度の環境下でベーコンを数ヶ月から数年間寝かせることがあります。
長期間の熟成は微生物の発酵と原料肉由来の酵素の影響を大きく受け、ベーコンは熟成前に比べて複雑な風味となります。

JASマーク 品位、成分、性能等の品質についてのJAS(一般JAS)を満たす食品や林産物などに付されます【4】。

二つ目は、JAS(日本農林規格)規格に則った塩漬けの熟成です。
このプロセスでは、塩漬液を用いて原料肉を低温(0℃以上10℃以下で5日間以上)塩漬させます。
塩漬による熟成は肉がよりしっかりとした味わいを持ち、塩分と風味がより均一に染み込みます。

一般的に熟成期間が長い伝統的な製法のほうがJAS規格に則ったものよりもうま味が強い傾向にありますが、人によってはクセの少ない日本産のベーコンのほうが好きな人もいるかもしれません。
また、伝統的な製法は製造期間が長いため価格は高く、輸入品の場合はさらに高額になる傾向があります。
輸入品は衛生基準が異なる場合があるため、安全な製品を選ぶには注意が必要です。

熟成工程によって一長一短があり、味や風味が大きく変わるため、ベーコンの味にこだわりたい場合は、生産工程を調査してから選択することが重要です。

2.ベーコンの栄養評価

ベーコンのたんぱく質と脂質の値は原料となる豚肉の部位に依存します。
脂質を制限したい場合はロースベーコン、ショルダーベーコン(肩肉)を選択するといいでしょう。

ベーコンのたんぱく質と脂質の量バラ:たんぱく質12.9g、脂質39.1g ロース:たんぱく質16.8g、脂質14.6g かた:17.2g、11.9g
日本食品成分表のばらベーコン、ロースベーコン、ショルダーベーコンより引用【5】

豚肉にはエネルギー代謝や神経機能の維持に必要な栄養素であるビタミンB1が豊富含まれています。
豚肉の加工品であるベーコンにもビタミンB1は多く含まれています。

加工により大きく変化する栄養素は食塩相当量とビタミンCです。

日本食品成分表の豚バラ 脂身付き 生、ばらベーコンより引用【5】

ベーコンは製造工程を見ればわかる通り、塩を使ったり、調味液につけるなどの加塩工程が行われます。
そのため、ベーコンには塩分が多く含まれています。
未加工の豚肉と比べると、100g当たり約2gほども多いのです。

食塩相当量の目標値は、日本人の食事摂取基準(2020版)によると、成人1日当たり男性が7.5g未満、女性が6.5g未満とされています【6】。
ですが、ベーコンを1品あたり50g(薄切り2枚分)消費すると、食塩相当量は1gになります。
これにさらに味付けで食塩を使うと、意外と塩分摂取量が増えてしまうかもしれません。
香辛料を使う、酸味や甘味などの他の味覚と組み合わせた味付けにするなど工夫することで塩分摂取量を抑えることができます。

日本食品成分表(2020版)でベーコンのビタミンCの項目を見てみると未加工の豚肉に比べ30㎎ほど多くなっています。
これはベーコンの製造過程でビタミンCが酸化防止剤として添加していることが一般的だからです。
包装に記載されている食品表示を確認すると多くのベーコンには酸化防止剤(ビタミンC)と表記されています。
そのため、無添加を謳っている製品や、酸化防止剤(ビタミンC)の表示がないものは、ほとんどビタミンCを含んでいない可能性があります。
なお、食品添加物としてのビタミンCも、食品由来のものと同じように、体内でコラーゲンの生成や抗酸化作用に関与します。

3.ベーコンに関するよくある疑問

ベーコンは体に悪いのか?

ベーコンやハムなどの加工肉が体に悪いという話を最近よく聞きます。
これは本当なのでしょうか?
国際がん研究機関(IARC)の報告によると、加工肉を1日あたり50g摂取すると大腸がんを患うリスクが18%上昇するといわれています【7】。
加工肉が大腸がんのリスクを上昇させる要因はいくつかありますが、加工肉に特異的な要因として添加物として含まれる発色剤(亜硝酸塩)があげられます。
亜硝酸塩は他の食品成分と反応してニトロソアミンという発がん性物質を生成します*2。
この話が話題になった背景には、欧米諸国の食事が加工肉の摂取が多く、世界的にみると解決すべき課題であったことがあります。

しかし、この報告を聞いてベーコンやハムを食べることが悪いと決めつけるのは早計です。
私たちが加工肉をどのように食べているのか摂取状況を考慮に入れる必要があります。

加工肉の50gは1品で簡単に取れてしまう量だとしても、日本では毎日これだけの量を食べる人は少ないのではないでしょうか?
令和元年国民健康・栄養調査の報告によると、日本人のハム・ベーコン類の平均摂取量は13.4gとなっています【8】。
あくまでも平均値なので、50g以上食べている方もいると思いますが、世界的に見ても少ない量です。
そのうえ、加工肉は体に悪い成分ばかりではありません。加工肉の原料となる赤身肉(牛・豚・羊などの肉)は不足しがちなたんぱく質やビタミン B、鉄、亜鉛など健康維持に有用な成分も豊富に含まれています。
そのため、闇雲に加工肉を食べるのをやめるのではなく、自身の食生活を調べた上で、自分にとって加工肉を制限する必要があるのかどうかを考えることが重要です。

*2 食品に使うことのできる添加物の量は、食品安全委員会や国際食品規格委員会(Codex Alimentarius Commission)が無害と確かめた量の1/100の量を、安全な摂取量と決められており、実際にはこれよりもずっと低い量しか残存していないことが多いです。

ベーコンは加熱せずに食べても大丈夫か?

ベーコンはそのまま食べても大丈夫なのかと思ったことはありませんか?
ベーコンの包装の表示をみると「加熱食肉製品」と書かれています。

日本産のベーコンの多くは表示を見ると加熱食肉製品と書かれており、中心部の温度を63°で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法による加熱殺菌をおこなっています。

その場合はそのまま食べても問題はありません。
また生ハムなどの非加熱食肉製品と表記されている製品も加熱殺菌は行っていませんが、水分活性の制御と温度管理を行いより衛生的な環境で製造を行っています。

しかしイタリアのパンチェッタやグアンチャーレなど海外の製法ではベーコンに加熱工程は含まれていないものもある為、プロシュート(生ハム)のように生食前提の食品でないかぎりは加熱して食べたほうがいいでしょう。

4.ベーコンの選び方・調理方法・保存方法

ベーコンの選び方

同じ製品の中から選ぶ場合は赤身と脂肪のバランスがいいものを選びましょう。
脂質が気になる方はショルダーベーコンがおすすめです。
現在は調理しやすいようにカットされたハーフベーコンやパスタの具に使いやすい短冊切りのベーコンも売っているので自分のライフスタイルに合わせた食品を選ぶことができます。

海外のベーコン

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ベーコンの主な調理法

カリカリベーコン

脂肪の多いバラ肉を使った薄切りベーコンで作るのがおすすめです。
火が通りやすいので弱火で焼き色が付くまで動かさずに加熱するとうまくいきます。
焼いてから切る方がフライパンにくっつきにくいです。
細かく刻んでサラダの付け合わせに最適です。

短冊切り

炒め物やパスタのような細長い料理に合う切り方です。

さいの目切り

チャーハンなどのご飯ものに合う切り方です。

関連レシピ

ベーコンの保存方法

包装に記載されている指示に従ってください。
発色剤不使用の製品は保存料が含まれていないことが多いので開封後は速やかに使用しましょう。

参考文献 下線ありのものはクリックで参考先に飛ぶことができます。
【1】農林水産省 JASの対象となる品目(規格)は?

PDF:ベーコン類

【2】日本ハム・ソーセージ工業協同組合 ハム・ソーセージベーコンができるまで
【3】日本ハム株式会社 豚肉の基礎知識
【4】農林水産省 JASってどんな制度?
【5】日本食品成分表 2023八訂

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【6】厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書

PDF:ミネラル(多量ミネラル)

【7】PDF:IARC Monographs evaluate consumption of red meat and processed meat

国立がん研究センターにて赤肉・加工肉のがんリスクについて解説を日本語で閲覧できます(二次情報)。

【8】厚生労働省 令和元年国民健康・栄養調査報告

PDF:第1部 栄養素等摂取状況調査の結果p67~p114

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高木駿介

 

管理栄養士
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